※同棲してるよ☆ と改めて言ってみましたが、あまりその意味の無い話ばかり書いていた気がしたのでそのツケを今払う。



ワンダフル・ライフ

『じゃあ住めばいいだろ、一緒に!』 ああそう。 どういう経緯でそうなったんだったかって話だよね。 ごめんごめん。 でもちょっと今記憶に障害があるみたいでさ。 馬鹿。 外科的な問題じゃないから。 世の中にはメスで解決出来ないことの方が多いんだよ。 第一、メスの通らない輩まで居るんだから。 え、だから。 …それがさ、ホントにわかんないんだよ。 ほら、俺ってさ、面倒な事とか要らない事とかってすぐ忘れるように出来てるんだよ。 便利だろ、これが人間の良いところだ。 …いや、実はちょっと怖い。 でも別になるべくしてなったのかなって思うから――― なんだその顔。 違うから、惚気とかじゃないから。 君と一緒にしないで欲しいな。 あ、ごめん電話…って、あ。 い、え?いや違う違う。 違う…けど その、すぐ出ないと命の保証がないって言うか いや、ホント違うからね! ごめん じゃあまた。 / 『それで、てめぇはこんな時間までどこをほっつき歩いてるんだよ』 苛々とした声が電話越しに聞こえる。 やばい。 これは相当にお冠だ。 「こんなって、まだ11時だよ。君だって遅いときは12時越えるじゃないか」 それとなく言ってみたが、何となく駄目そうな予感がひしひしとしている。 帰ったら殴られるな、これは。 どこのDV亭主だよ、冗談じゃない。 …亭主? 駄目だ、完全に思考が毒されてる…。 慣れとは恐ろしいものである。 『…悪かった。でも心配だからなるべく早く帰ってこいよ』 …。 ………。 夢か。そうだな。夢だな。 「え…うん…わかった。あの…帰りにコンビニでプリンでも買って帰ろうか?」 余りの事に背筋が寒くなる。 これは機嫌の悪さが天元突破したとでも受け取ればいいのか。 所謂一つの死亡フラグか。 という訳で、食い物で釣る方向にシフトしたのだが、 『良いよ。それより早く帰ってきてくれる方が嬉しいから』 …なるほど。 きっと悪い物でも食べたんだな。 シズちゃん食い意地が張ってるから、賞味期限切れの食品とか平気で食べそうだ。 それかあれかな。 大して強くもない癖にやけ酒でもしたのか。 …あれ、それって帰ったら殴られるよね、確実に。 面倒臭い酔っぱらいに絡まれた上に瀕死の重傷を負うよね。 畜生、何で同居なんてしてるんだろ。 俺、馬鹿かも知れない。 「わ…わかった。なるべく早く帰る。もう電車乗るから、じゃあね」 大きく溜息を吐いて、前に向き直る。 本当に、何故思い出せないのか分からない事が引っ掛かる。 引っ掛かる物の、それを切り出す方が大きな問題になりかねない。 だから、現状維持という一番無難な解答に到達した訳だ。 階段を上りきると電車の到着アナウンスが聞こえた。 直後、黄緑のラインの入った車体が滑り込む。 混んでいない車内に、右足を踏み入れて再度、溜息を吐いた。 / 『ったく、めんどくせぇな、切るぞ』 ぶっきらぼうに言うが、こう見えて(見えていないのはこの際問題ではない)彼は今ご機嫌である。 何せ、切るときは問答無用で通話終了ボタンを押す男なのである。 切るぞ、と警告してくれている内は、話す気がある、ということだ。 「まぁまぁそう言わないで。もう暫くは俺とセルティとの幸せ生活について聞いてくれても良いだろ」 因みに、今で2時間が経過している。 『いい加減似たような話ばっかりしやがって…』 受話器越しに大きな溜息が聞こえた。 元から怒らせさえしなければ穏和な男だったが最近の静雄は輪を掛けて大人しくなった。 というか、妙に気が長くなった。 瞬間湯沸かし器のように怒りを爆発させる事も少なくなかったのに、それがめっきり無くなった。 常に彼の内部で対流していたマグマが、すっかり消えて無くなってしまったかのように見える。 まるで、死火山だ。 「君だってさ、酔っぱらうと僕に電話掛けて来るじゃない」 そう言うと、え? と予定通りの答えが返ってきた。 「正直さぁ…そりゃ友達だもん、幸せになってくれるのが一番だけどさ」 彼がその低すぎた沸点を改善するに至った経緯は火を見るよりも明らかである。 定期的に掛かってくる砂を吐きそうな惚気話を聞く限りでは、彼は今の生活を大層気に入っているようである。 まぁ、臨也の友人としての立場からすれば、少し微妙な所ではある。 というか、申し訳なくもある。 『俺…なんか言ったかな…』 ええ、山程。 しかし全てを列挙していては幾ら時間があっても足りないので割愛する。 「まぁ気持ちは分かるけどね、もう少し臨也に気を使ってやってよ?」 こう、色々な意味で。 と、双方の言い分を聞き得る立場の友人として言っておいた。 まぁ、どちらかに寄りすぎることは無いはずだ。 強いて言うならセルティ寄りである。 あれ、二択に入っていない? それは失敬。 『ああ…分かってる』 穏やかな一言に、敵わないなぁ、と思いながら溜息を吐いた。 / ソファに座って映画を見ていた。 少し古い、洋画である。 風呂上がりに缶ビールを二本程空けた。 大分酔いが回っているかも知れない。 一本では物足りなかったのだが、二本は確かに少し多かった気がした。 話の中身は半分ぐらいしか頭に入っていない。 机の上の携帯電話が、23:22を表示している。 さっき電話を切ってから20分程経った。 もうそろそろ帰ってきても良い気がする。 そう思っていたところに、ドアを開ける音がした。 「た…ただいまー」 随分と控えめな挨拶だ。 「ん、おかえり」 目を合わせると、臨也はびくりと肩を振るわせる。 何をそんなに怯えているのか知らないが、小動物を思い出す。 「あのー、シズちゃん…」 ちらちらと辺りを確認しながら部屋の中へ入ってくる。 「ほら、座れよ」 ぽん、と隣の座面を叩く。 「え!…いや、そうさせてもらうよ」 ころころと表情を変えながら、ソファの側まで歩いてきた。 最終的に苦い顔に落ち着いたのか、眉間に皺を寄せて溜息を吐き、隣に腰掛けた。 とはいえ、何だか微妙に距離が空いている。 肘掛けぎりぎりの所に座っているのだ。 「なぁ、臨也」 声を掛けると、 「何…?俺まだ何もしてないよね?」 と半ば泣きが入った様子で言った。 …えーっと。 「あのなぁ…」 ちょいちょい、と手招きすると、ぎょっとしたように身体を強張らせた。 「…別に殴ったりしねぇよ」 ちょっと拗ねたみたいな言い方になってしまったのが癪だ。 何でそこまで用心されなければいけないのか少し腹が立った。 「…ごめん」 …しかし、おずおずと近寄ってくる臨也が可愛かったので赦す。 引き寄せると、仄かに甘い匂いがした。 「ちょっと…」 ああ、そうか。 シャンプーの匂いだ。 「うん?…んー…」 臨也の髪に顔を埋めると、さっきより幾らかきつく、匂いがした。 同じ物を使っているはずなのに、自分のは気にならない。 なぜだか、よく分からないけど。 「シズちゃん?」 少し戸惑ったように言う。 「…心配、したんだ」 馬鹿じゃないの、と言われることを見越して言ったのだが、臨也は大人しくしている。 珍しいこともある物だな、と思っていると、 「…ばか」 と消え入りそうな声で言われる。 思わず溜息が出た。 「え、ちょっと、何…?」 その溜息の意味が分からなくて慌てる臨也。 そういう一挙手一投足が 「   」 呆然とする臨也に、思わず微笑んだ。 或いはこれも 

段々自分のリミッターが見えてきました。 というか、リア充したこと無いのでリア充わかんないぜ キリッ 同棲書くぜ、と言ってから随分時間が経ってしまって申し訳ありません。 キッカさんに捧ぐ。 2010/05/11