Love is War!

言葉が言った端から消えていく。 かさついた喉。 交差点の真ん中で唐突に立ち止まりたい衝動に駆られて、―――でも流石に常識は有るので止めた。 代わりに、ビルの屋上で溜息を吐く。 曇天の下、俺は静かに目を閉じた。 ああ、灰色に溺れてる。 / 彼がぼそりと呟いたのは、なんとも間抜けな一言だった。 「今の生活にも、不満がある訳じゃねぇんだよ」 得物も持たず、壁に凭れかかって言う。 「ああそうなんだ?」 ポケットに突っ込んだままの手をぎり、と握りしめた。 「だから、手前が余計なことさえしてくれなきゃ俺は大人しく暮らせるんだよ」 少しの困惑と、諦めを含んだ口調だ。 嘘ばっかり言いやがって。 「俺の絡まないところでも随分と荒れてる癖に」 じろりと睨み付けると、案の定困ったように言い澱む。 知っている。 彼が何を言おうとしているのか。 「………それは…」 でも、足りない。 「それも俺のせいだって言うの?理不尽だねシズちゃん」 最後まで言ってくれなくちゃ、分からない。 言ってくれないなら、聞きたくない。 「なぁ、そんなに気に入らないか」 唇を噛み締めて、聞こえなかったふりをする。 パチンと音を立ててナイフを開いた。 「俺の気持ちだよ、シズちゃん」 ちっ、と舌打ちする音。 一瞬で切り替わる表情にぞくぞくする。 / 自分以外の人間に向ける穏やかな表情に苛々した。 『ああ、わかってますよ』 サングラス越しの瞳のおぞましいほどの穏やかさに舌打ちする。 雑踏に紛れて見えなくなった。 いや、目で追うのを止めたんだ。 これ以上眺めていたって不愉快になっていくだけだから。 「そんなの、君じゃない」 聞こえないのに呟く。 聞こえないから呟く。 「そんなの、平和島静雄じゃない!」 金属が、鈍った音を立てた。 お前は そんな奴じゃない そんな青空の下に立てるような男じゃない そうだろ?シズちゃん――― / チンピラ、トラック、銃弾、改造スタンガン どれも君を殺すには足りない。 (君を振り向かせるには弱すぎる) ああでもできるならこの手で、息の根を止めてみたい。 「ねぇ、受け取ってよ」 小さくて、余りにも頼りない刃。 でも軽くはない。 心臓の音が 聞こえて きそう 「…臨也」 呆れるほどの憎悪。 ああ、今この瞬間を心待ちにしていたんだ! 「はははは、そう来なくちゃ」 その目で君が俺を殺せないように 俺も君を殺せないように 殴りかかってきた拳を避けて、(いつも通り) 刺さらない刃を突き立てて、(想定通り) 襟を掴まれて引き寄せられて、(予定通り) 尖った殺意と共に口付ける。 灰色に沈んだ世界から俺を叩き起こす、唯一の方法。 風に煽られて、コートの裾が翻った。 / 結果として 俺たちは未だ 愛を 殺し損ねている

愛すべき電子歌姫に捧ぐ。 2010/03/09