リップサービス

商売柄か、生まれもっての性質なのか、俺は割と躊躇いなく嘘を吐く。 嘘、というより、1%の事実と99%の飾りというか。 本質を見抜く人間ならば何ら問題のないその言葉達は、表面を気にする人間には素晴らしいトラップになる。 そうして、彼らの反応を見て「人間」という物を測ろうとしているのだ。 どのような人間が自分に惑わされ、どのような人間が自分を嫌い、どのような人間が世界を愛するのか。 全て探求心の赴くままに調べているだけであって、それを纏めて発表したりするつもりはない。 俺の興味をそそればそれは他人にとってどれ程下らないことであっても構わない。 逆に言えば、誰かに受け入れられる為に生きている訳でも無いのだから、理解なんてしてくれなくて良い。 「人間」には愛して貰いたいし「運命」にも愛されたい。 けど、誰かに愛されたい訳ではないし、誰か特定の人間を愛したい訳でもないのだ。 貌のない、集合体としての「人間」だけが―――情報としての人間だけが自分にとって必要な物なのだ。 ああ、とても正しい情報屋としての姿勢だと思わない? だから「嫌い」とか「大嫌い」って、十分なサービスだと思うんだよね。 纏めて愛してるっていう適当な扱いじゃないんだよ? その辺を汲んでくれるような人が良いんだけど、まぁそれって「まともな人間」だからそんなこと彼には期待してないよ。 だって、「まともな人間」だったら最早それって「平和島静雄」じゃないじゃない。 だから、解ってくれないシズちゃんが「嫌い」 そう割り切って生きて行く方が絶対人生楽しいって。 ―――まぁ、多分今まで一度だって人生が楽しかった事なんてないだろうけどさ。 ぺろりと自分の唇を舐める。 特に何の味も感じはしなかったが、これが人を惑わす唇の味なのだと思えば面白くもあった。 「毒の味も、甘い味も、しないもんだね」 馬鹿げたことを言っていると自分でもよく分かっている。 ただそれが少しばかり愉しかった。 / 『あはは、あなただけですよ。ご安心を』 嘘ばっかり吐きやがって。 それを一体何人に言いやがった。 『ええ、期待してますよ?』 本当に期待している人間は薄ら笑いを浮かべながらそんなことを言わない。 『お望みとあらば全てお売りしますよ―――まぁ、高くつきますけどね』 そんな言葉に騙される人間が哀れにすら思える。 そうして、あれの言葉に一々むしゃくしゃする自分に何より腹が立った。 俺には、それはもう刺々しい言葉しか投げかけてこない癖に。 「電話は済んだかノミ蟲」 奴は携帯電話をポケットに仕舞い、勿体を付けるように振り向いた。 「待ってくれたの?シズちゃんやっさしー」 全く心のこもらない言い方だ。 …別に感謝してくれなんて思っちゃいないんだが。 「ああ、如何に俺の気が短いと言えど、お前が可哀想な誰かを口説き落とす間ぐらいは待ってやるさ」 苛々していた為か余計なことまで言ってしまった気がしないでもない。 「…口説き落とす…ねぇ」 にまにまと、下卑た笑みを浮かべている。 ほんと、心の底から最低な男だ。 「違ったか?」 だが一回言ってしまったことを訂正するのも癪なのでそのまま突き通す。 「そう言う意味では俺、今のところ百発百中だよ?」 指で銃の形を作ってこちらに向けると、ぱーん、と間抜けな擬音を出した。 「ああそうかよ」 腹立たしい。 それも、一瞬「ガキみたいな事しやがって」と頬が緩みかけ、でも言葉の内容に少し引っ掛かる物を感じて不愉快になった自分がである。 「あれ、嫉妬とかしてくれないんだ?」 くすくすと笑っている。 ―――純粋に冗談で言っているにしては少しばかり狙いすぎている気がするんだが、気のせいだろうか。 「誰が、何に」 自分の中では稀に見る冷静さで言った。 「うーん。予定外」 お前の予定通り進めさせて堪るか。 「そりゃ良かったな」 内心穏やかでない物を感じながら、なるべくそれに目を向けないように気を紛らそうとする。 「因みに本命は未だ口説いてすらいないんだけど、ね」 そう言ってさっきの指をとん、と俺の胸の上に置いた。 「…は?」 思わず動揺して声が裏返りそうになったのを必死にこらえる。 「幾ら百発百中でも、本命が落ちなきゃ意味ないでしょ?」 「………」 もう何も言えなかった。 これが本当の「リップサービス」という奴だ。 何だかとっても安上がりな自分が切ない。 「はは、そういうとこ可愛いね、シズちゃん」 してやったり、とばかりに笑う姿が何だか妙に眩しい。 その上、なんだかんだ言って上手く遊ばれている自分が情けなくなった。

臨也君は病んでてほしいな、色んな意味で。 あれ、これもしかして今までで一番シズイザじゃね? と思った後半…。笑 2010/02/10