Dance with high-beat!

きん、と硬質な音が響く。 これでもう三本もナイフを駄目にした。 「いい加減人間やめちゃってるよ、シズちゃん」 たん、と地面を勢いよく蹴って飛び退る。 刹那、鈍い衝撃が走る。 コンクリートが煙を上げて砕けていた。 「…だからぁ…」 「そう思うならさっさとくたばれよノミ蟲」 勢いよく繰り出されるのはただの拳。 でも、他のどんな兵器より恐ろしい代物であることはさっきの一撃が証明している。 速やかにしゃがんで、踏み込んできた足に打撃を加える。 …固すぎる。 「ちょ、もはや特殊装甲の域だよシズちゃん!」 「黙れ」 危うく蹴りが入りそうになったところを転がって避ける。 全く、またコートをクリーニングに出さなきゃ… 「大体さぁ、俺何で追いかけられてるんだっけ」 半ばやけっぱちで投げたナイフは的に当たる前に振り払った拳にへし折られた。 完全に物理法則を無視している。 馬鹿にしやがって。 あんな物を人間だとは言わない。 シズちゃん、君もう随分と人から遠い存在になっちゃってるよ。 「理由?そんなもん」 右からのストレートをかわそうとして、うっかり左腕に掴まれる。 …あれ、やばいんじゃない、これ。 「俺が腹立つからに決まってんだろ?」 にまり、と満面の笑みを浮かべる人間兵器。 こういうのを「死亡フラグ」と言うのだろうか。 「じゃあさ、シズちゃん」 どうせ死ぬのなら一か八か賭けておこうというものだ。 「俺もなんか君の理不尽さには腹が立つけど」 空いた左手で彼のお気に入りのサングラスを外す。 「あ?」 予想していなかったであろうこちらの行動に目を丸くしている。 何だ、可愛いところもあるじゃん。 知ってたけど。 「まぁ良いさ。どうぞ、お気に召すまで」 奪い取ったサングラスのツルに、軽く音を立てて口づける。 「………」 呆然としているようだ。 それもそうだろう。 自分がシズちゃんの立場なら、一体何がどうなっているのか混乱の極みにある筈だ。 それとも、俺のサングラスに何をする、と怒りを露わにするだろうか。 何れにせよ、目の前の相手は何とも言えない表情でこちらを見つめるばかりだ。 …端から見たら間抜けな絵面だろうな、これ。 「…どうしたの、シズちゃん」 今までの行動パターンから考えて、 1、問答無用で殴る。 2、興醒めだ、と言い捨てて放す。 因みに今のところ2がとても優勢だ。 殴るつもりなら、もうとっくに殴られていてもおかしくないのだ。 「…柄にもねぇことすんじゃねぇよ」 答えは3の「予想以上にダメージが大きくて赤面の上撃沈」だったらしい。 「ば…ちょ、シズちゃんこそ柄にもない反応しないでよ!」 やったこっちにも大ダメージだ。 大火傷もいいところじゃないか。 主に心に。 「…なにやってんだろうな、全く」 ほんと、いい大人二人で何を馬鹿なことをしているんだろう。 そう思いながらも、いつもより格段に大人しいシズちゃんにうっかりときめきそうな俺を今すぐ殴りつけたくもある。 正気に戻るには、もう少しばかりかかりそうなんだけど。 金属音と、破裂音と、打撃音と、その他色々の雑音。 でも、そのどれよりも 心臓のビートが一番煩い。

はいはいこの中学生が、みたいなね。 殺し愛上等とか言いつつ、こういう何ともな話も書きたいお年頃。 まぁ書いた後壮絶な一人反省会になるんですけどね。笑 2010/01/27