戯れ言/日課

どうにも、客観的に見る、という事が出来ない。 人間である以上、主観以外の何かで見ることが出来るのか、というのは問題ではない。 本人が客観だとはとても思えないほど感情に偏った見方しか出来ないのだ。 だから、同じ物に対しても日によって評価が変わる。 今日は良くても明日は駄目、というのもざらにある。 その逆も又然り。 安定しないのは、感情の制御が出来ないからに他ならない。 逆に言えば、常に一定の評価を下し続けられる物というのは、余程感情を揺さぶらないものか、 「…あのノミ蟲…!」 余程一定の方向に揺さぶるものかのどちらかである。 それ以前の流れなんて物は一気に吹っ飛び、脳内を一色に染め上げる。 強烈な怒り。 暴力の肯定。 「ちょ、待ってよ!まだ何もしてないって」 小賢しい声。 「生かしといたら必ず何かするんだろうが!」 狡そうな目。 「俺は、何もしないよ」 澄ました顔。 「世の中の悪事の99.9%はてめぇのせいだ」 どう見ても俺を挑発しているとしか思えない。 「そんな馬鹿な!」 ―――どうにも、客観的に見ることが出来ないのだ。 / 煙草に火を点けるその瞬間が一番愉しい。 煙を燻らせている間は、愉しいと言うより安堵の気持ちが強い。 夜風に当たるのも好きだ。 仕事を終え、今日一日の労働を労う為に一本取り出す。 ライターで火を点けようかと思った瞬間だ。 「「あ」」 同時だった。 向こうがこちらに気付いたのとこちらが向こうに気付いたのは正に同時だった。 そうして、自分の中で急速に怒りが沸き起こる。 理由なんて必要ない。 強いて言うなら、あいつという存在その物が怒りの源泉だ。 ばねの様に飛び出した黒い影を全速力で追いかける。 「や、もう新宿に帰る道だから!」 「嘘吐け、駅は反対側だ」 かなりの早さで追いかけているのに、会話できるほど余裕が出てきたか…。 「今日は地下鉄で帰るんだって」 「遠回りにも程が有るだろ」 嫌そうな顔で、 「途中で銀座にも用事があるから」 と答える。 「ああ、なるほど、そう言うことか」 こちらの言葉にほっとした顔を見せるノミ蟲。 残念だったな。 「けど、誰も無傷で帰すとは言ってねぇぞ?」 にやり、と笑うと 「く、卑怯な。もうほんと死ねばいいのにシズちゃん!」 …。 …。 …。 「…あれ?」 拍子抜けしたような声が聞こえる。 拍子抜けしたのはこっちのほうだ。 「…てめぇなんざさっさと丸ノ内線でも銀座線でも乗って新宿に帰りやがれ」 速度を落とすと、揃えなくても良いのに律儀に速度を落としてくる。 「何、どうしたのシズちゃん…まさか不治の病とか患ってるの?」 日頃ならどうしようも無くこちらの神経を逆撫でする言葉が今はどうも気にならない。 「剰え一ヶ月以内に死んだりとかしないの?」 ほんと、普段だったら三回ぐらい殺している勢いだ。 「…どうしちゃったんだよ、急に」 窺うような表情。 「ねぇ、シズちゃんってば。聞いてる?」 死ねだの殺すだの散々言ってる癖に、何だその顔は。 「…ごめん、ほんとにわかんないんだけど」 そんな困ったような顔しやがって。 「てめぇがわかんねぇようなこと、俺が知るかよ」 「ば…ばかじゃねぇの…」 結局自分でもよく分からないまま今に至る。 あれ以来、見かけてもお互い直ぐさま走り出したりはせず、 「「あー…」」 となんとも気まずい間を味わう事がお約束になってしまった。

二人ともなんかぼけてる。笑 シズちゃん可愛いよシズちゃん…! 2010/01/17