優れた指導者はまた優れた煽動者でなければならない
愛を以て、そして憐れみを以て、

孤高の救世主もどきをも慈しみ

全てをその視線で焼き殺すまで

Phantasm

「悪い事をしていると思ったことは無いけど」 玉座は退屈しか生まなかった。 見た目は良いが座り心地の余り良くない椅子にうんざりする。 ―――まぁ、細かい手作業のあとが見て取れるという意味では最高の椅子なんだけどね。 支配者は一人きりだった。 孤独、ではない。 望んで一人になるのは、望まない孤独とは違う。 「誰の為にもならないことをしているとは思うね」 彼の声はとても澄んでいた。 人を惑わせるには丁度良い冷たさと柔らかさだった。 正に、生まれながらにして煽動者の資質を持ち合わせていたのである。 煽動者。 僭主。 人を駆り立てる者。 好意か嫌悪しか生まない。 決して、無関心では居させない。 それはまるで、 「ああ、つまらない」 彼だけが真空地帯にいた。 どれだけ周囲が争乱に満ちようと、彼だけが―――彼と首だけがその中心の無風地帯に居た。 それは望んだことであったはずなのにどうにも彼を白けさせた。 自分だけが置いていかれた、と冗談半分に言う程には。 「誰でもいいや、俺を殺しに来ないかな」 退屈に 殺される前に。 瓦礫の山を駆け上る。 息が切れそうだ。 久しく感じたことのない感覚に眩暈さえ覚えそうだ。 しかし確かに彼は生きていた。 「くそ、死ねばいいのに」 口元は歪な笑みを浮かべる。 悪態の筈なのに、どこまでも弾むような調子で謳う。 「そりゃてめぇの話だろ」 背後の轟音も、飛び散るコンクリートも、彼を竦ませはしなかった。 「あはは、お互い様って奴だ」 一番きらきらしい表情で。 玉座の退屈を吹き飛ばすほどの、充溢。 「良いから黙ってろ」 怒りに彩られた獣が呻く。 しかしそれは望まずして救世主の資格を得た者の嘆きにも似ている。 「出来るものならさっさと殺して御覧―――」 至近距離で打ち込まれた一撃をこともなく躱して見せ、敵の耳元で囁く。 「てめぇ―――」 振り向かれる前に瓦礫の山から飛び降りる。 そして、より深い夜の闇に身を潜めるのだ。 あれは必ず殺しに来る。 俺を殺しに来るんだ…! 壁に背をつけて息を整える姿は、酷く艶めかしい。 事実、今までで一番、彼は「生きて」いるのだから。 「可哀想な男だ」 誰が。 彼自身にも分からないまま口にした。 走りすぎて少し掠れた声で、しかしはっきりと。 月はまだ、昇りきっていないようだった。

ザ・厨二病。 某ゲームやりたいけど出来ないっていうパッションをぶつけてみた。 いや、単に曲流しながら書いてたってだけなんですけども笑 2010/11/19