※とっくにデキている設定(続いていたり続かなかったりしている)

甘すぎる舌禍

「ん…ふ…」 日頃はこれでもかと憎らしいことばかり言う口は、小さな喘ぎだけを漏らす。 喋りさえしなければ随分と可愛い奴なのに、とそれなりに沸いたことを考えながら脇腹に指を這わせた。 何だか今日は機嫌が良くなかったらしい。 やたら絡んでくるな、とは思っていた。 ただ、原因に全く思い当たる節が無いことがこちらの頭を悩ませた。 考えるのは、余り得意ではない。 考えたところで、大した答えも期待できない。 これは物事全般に言えることであり、自分にはどうしようもないことであった。 ―――だが、何気なく呟かれた言葉によって疑問は全て解決した。 臨也が一番言いたかったのは一体何なのか、漸く解ったのである。 『…へぇ、でも愛してくれるなら誰でも良いんじゃないの?シズちゃんは随分と寂しがり屋さんだから』 (寂しがり屋なのはお前の方だろ、臨也) 解ったら解ったで、それを放っておく訳にも行かない。 臨也の場合なまじ頭が回るが故に、想像を絶するような手段に出る可能性が有る。 つくづく面倒な奴である。 「考え、事とか…余裕じゃない」 肩に思いっきり爪を立てて不愉快そうに言う。 刺さりもしないのに、嫌に主張する。 「お前こそ、文句言う余裕有るんじゃねぇか」 お返しに肩口に噛みつく。 「ひぁ」 煽るような声に気分が良くなる。 臨也は慌てて口元に手を持って行く。 「ほら、大人しくしてろよ」 噛み痕を舌でなぞると、小さく呻く。 「ぃ…やだ」 額を押し返そうとする右手を軽く払う。 恐らくこちらをきつく睨んでいる"つもり"なのであろう事は分かった。 が、睨まれたところで怯むような関係でもないし、実際問題睨まれている、という気になれない。 (こいつ…顔だけは良いんけどな) 本人に言ったらとんでもないことになりそうなので、直接言ったことはない。 まぁ整ったいい顔だと思うんだが。 世間的にどうなのかまでは知らない。 抑も他の人間がどう言おうが俺の知ったことではない。 「まぁ…俺は好きだけど」 「は?」 素っ頓狂な声が上がった。 どうやら、口が滑ったらしい。 「あ、いや、その」 どう言った物かすぐに思いつかない。 こんな時臨也のようなよく回る舌を持たなかったことを恨むのである。 (あー、どう言うのが賢いんだ?口が滑ったって正直に言っても何のことか聞かれたら困るしなぁ…) 色々と思案を巡らせていると、 「…まぁ大体こんな時しか言わないよね、シズちゃん」 何をどう受け取ったんだか無理に明るくつくった口調でのコメントが返ってきた。 これは随分と不味い勘違いをされているんじゃないだろうか。 具体的に何なのかはよく分からないが。 「別に良いけどさ。ていうか普通そうだよね。ベッドの中ではみんな言いたい放題だもんね」 しかも何に納得したのか、僅かに遠い目をする。 「奥さんと別れて君と一緒になりたい、だとかさ。無理無理。素面になった途端やっぱり家庭も大事とか言い出すんだよ。ほんと笑えるよね」 もの凄く人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら、ああしかし目が全く笑っていない。 「大体お前の事なんてこっちも最初から暇潰しぐらいにしか思ってないんだけど、って言ってやろうかと思ったけど」 …ちょっと待て。 今のは直接の体験談か。 その話はちょっと詳しく聞かせて貰わなくてはならない気がして――― 「でもさ、シズちゃん。男なんてそんな物だよ。君も含めて、さ」 「あ?」 思わず声が出た。 「セックスしてる時か、まぁそれに準ずる時ぐらいしか好きだなんて言わない」 どういう意味だ。 「別に君に四六時中『好きだ』って言って欲しい訳じゃないよ。そんな馬鹿馬鹿しいことしなくて良いけど」 嗚呼畜生、頭が全く追いつかない。 「悪いけど、俺はそんなに安くないよ。…見た目だけは良いんだからさ、もうちょっと君のニーズにあった女の子探しなよ」 …。 ………。 ………………。 「…見た目だけ、か」 もう一体どこから切り込めば良いのか分からなくなってしまった。 その結果が、この呟きである。 「…そこに食い付くんだ。何、シズちゃんわざとなの?それとも本当に馬鹿なの?」 誓って、わざとではない。 しかし馬鹿でもないと思いたい。 「お前こそ俺の見た目だけが好きなのか」 自分で言ったことなのに随分と不愉快な響きだ。 しかし、同じようなことをついさっき考えていた自分が言えた義理ではないのだが。 「…なんかもう真面目に相手するの馬鹿馬鹿しくなって来ちゃった…」 盛大に溜息を吐きつつ言う。 「…何だその答え、気に食わねぇな」 頬を軽く引っ張る。 「いたいってば。…ほんと、ガキかよ」 臨也は眉間に皺を寄せて、仕返しとばかりに額を指で弾く。 「うるせぇよ。人が大人しく聞いていればぐだぐだ文句言いやがって」 脚を持ち上げると急に慌て出した。 「ちょ、え…なに、やる気なの?この状況で?信じらんないよシズちゃん、君の頭はどうなってるんだよ」 そんなもん知るか。 ついでに言えば、今の焦った顔は特に好きである。 「話は後で聞いてやる。取り敢えずやらせろ」 太腿を食むとびくり、と身体を震わせた。 「…っあ、最低だよ、君」 「はいはい、後でな」 ごちゃごちゃ考えるのは苦手なので、取り敢えずはこいつを黙らせることが一番有効なのだ。 どうして欲しいのかは口に出されるまで分からないし、まぁ恐らく無理に「吐かせる」以外に知る方法はない。 俺に出来るのは、ただ何も言わずに抱いてしまう事ぐらいである。 「…何でこんな奴…」 続きは、何となく分かるので言わせない。 改めてキスをしても、やっぱりさっきと同じココアの味しかしなかった。

続き物を書いているうちに端と思いついたネタ、の続き。 のような違うような。 臨也との脳内の温度差は最早埋めがたい仕様です。笑 因みに付き合ってるぜカテゴリ(笑)の中でも設定にばらつきがあるのは偏に私が雑食だからです。 日付的にまぁ何だ、察して下さい笑 2010/03/14