※本当に、無駄に、キスしてます。

過保護って何だ

本当に、どうしてこうなったんだか解らない。 丸まって眠る男を見ながら、溜息を吐いた。 / 「ねぇ、ドタチン」 極めて上機嫌そうだ。 「ん?どうした」 こちらは長編小説を読み終えたところで、これまた機嫌が良かった。 「キスして?」 小首を傾げる、あの所謂おねだりの姿勢である。 「ああ、良いぜ…………って、ちょっと待て」 何の考えも無しに了承してから、やっと何を要求されていたのか気が付いた。 慌てて突っ込むと、あっけらかんとした口調で、 「はは、やっぱり聞いてなかった」 と笑われた。 「…そういう冗談はよせ」 狩沢とか狩沢とか、主に狩沢とかの餌にしかならない。 同じワゴンのメンツにこういう事を言いたくはないが、流石にあれは…その、なんだ。 …時折、本気で勘弁して欲しい時がある。 「ま、冗談半分、本気半分ぐらいだったかなー」 目を細めて笑っている。 「なんだ、冗談は半分だけだったのか。なら仕方ないな」 「そうそう、仕方ないよね」 「って、そんな訳有るか。より悪化してるじゃねぇか!」 駄目だ、さっきまでの小説に引き摺られてるぞ、俺。 ノリ突っ込み癖がうつってる。 「あはは、俺別にドタチンになら何されても構わないんだけどなぁ」 もう突っ込みきれない。 なんだ、どうしたんだ急に。 何か悪いものでも食べたのか? それとも変な薬でも始めたんじゃ… 「あ、さてはお前、徹夜明けだな」 睨み付けると臨也はへらへら笑い、 「どーしてわかったの?凄いねドタチンって」 等とこの上なく間抜けな返事をよこした。 よく見れば、目の下に少しクマがある。 それに、微かな差だが、いつもより疲れた声である。 妙にテンションが高く、そのくせ少し目が虚ろなのは正に徹夜明けとしか言いようがない。 「…そりゃ、見れば分かるだろ」 確かに日頃からちょっと妙なテンションの男だが、慣れれば細かい差ぐらい解るものである。 そして、無意味に笑っている時が実は一番辛い時だというのも、知っている。 「そうかなぁ、意外と他人にはばれないもんなんだけど…」 そう、今みたいに。 「まぁ良いから、取り敢えず座れ」 ぽんぽん、と座面を叩くと大人しく横に腰掛けた。 「ねー、ドタチン」 両手を俺の膝に置いて身を乗り出してくる。 「おう、どうした?」 尋ねると悪戯を思いついた子供のようににんまり、と笑い、 「おやすみのちゅーは?」 等と言う。 「…お前さ、もうちょっと自分を大事にしろよ」 眠いとはいえ、そんなキャラクターも何もあったもんじゃない事をするか…普通。 というか、大の大人が、しかも男が、一体何をやってるんだか…。 「ドタチンこそ、もうちょっと自分を大事にしなよ」 一瞬だけ、正気に戻ったかのように見えた。 ただ、言葉の意味を問おうとしたら、強制的に会話が打ち切られてしまった。 ―――何が、どうなってるんだ、一体。 自分の処理できる限界を超えてしまった。 一生懸命現状を把握しようと努めるのだが、何が起こっているのか、答えがいつまで経っても出力されない。 正に、頭が真っ白になる、という奴だろうか。 でも、これだけ考えられていると言うことはやっぱり真っ白ではないのか? 「はい、ごちそうさま」 それはもう、毒々しいぐらい色っぽい顔で。 ぺろりと唇を舐める舌が、紅い。 「でもって、ごめん、限界」 そう言って、膝の上にばったりと倒れ込んだ。 ものの数秒の後にはもうすやすやと寝息を立て始めた。 「………………は?」 文句を言いたい訳では無かった。 文句と呼べるような文句は、全く以て思いも付かない。 当然、怒りもしないし、泣きもしない。 なんだか、兎に角よく解らなかった。 襟ぐりの深いシャツから覗く首筋に妙な感銘を受けたりもした。 あとは、そうだ。 こいつが同い年の男かどうか、本気で解らなくなってきた。 でもそれより何より強く自分の思考を占拠したのは、 「…ブランケットなんか近くに置いてたか?」 という、その一点であった。

詰まるところ、世話焼き体質のドタチンを愛してます。 みんなのおかん。ある種のフラグクラッシャー。笑 2010/02/19