休日の過ごし方

ゆらゆらと、何かが揺れる。 白くぼんやりとした視界。 何だろう、と思って手を伸ばしたら 「おはようドタチン。お目覚めは如何かな」 予想外のものが視界に収まっていた。 「…目覚めは、悪く無いな。ただ臨也、何でお前が居るんだ?」 身体を起こすと、全く以て無邪気な笑顔でこちらを眺めている。 日頃の悪人面が嘘のようだ。 しかし、実際問題としてどちらが嘘かは他人には分からないものである。 「その程度じゃ誤魔化されてやらないぞ」 未だ幾分か眠気が取れない為、頭の回転が悪かった。 「他意はないよ。会いたかったから来ただけ」 大体に於いて「他意のない」行動が無いこの男が言うと、強烈な違和感を感じる。 いや、それ以前に会いたければ不法侵入は許されるのだろうか。 …まぁそんなことこの男には無意味な質問だろう。 今日は珍しく仕事も予定もない、全くの空白であった。 そのせいで目覚ましも掛けずに惰眠をむさぼっていたのである。 それさえもはかってここに現れたのだとしたら、恐ろしい男だとしか言いようがない。 「なんで俺なんだ?」 純粋な疑問だった。 家に勝手に上がり込むほど俺に会いたがるような奴だとは思わなかったのである。 折原臨也という存在は本人曰く人間を満遍なく、等しく愛しているのだという。 なら殊更に俺である必要は無いし、そんな拘りもない筈だ。 本当に彼は満遍なく、分け隔て無く他者への関心を持つ。 強いて言うなら、彼の天敵である静雄に対して必要以上にちょっかいを掛けている位で。 だから、本当に全く、理由が思い当たらないのである。 「ドタチンが一番優しいからね」 さらりと髪が流れた。 短めの黒い髪は陽光が透けて淡く茶色に光っている。 「狭い人付き合いだな」 そう言うと、少し驚いたような顔をして、 「何いってんの。世の中にここまでお人好しな人間なんて殆ど居ないよ」 とやや強い口調で断言した。 人間観察を趣味とする男が言うのだからそれなりに正当性のある意見だろう。 ただ、彼の場合少しばかり世界を穿って見る良くない癖が有る。 しかも本人がそれに気付いていないのが問題だ。 「お前は俺を美化し過ぎなんだよ」 そう言えば目を丸くする。 でも直ぐに何か思うところがあったのか、機嫌良さそうに笑った。 「そういう謙虚さが好きだよドタチン」 ―――そうやって、悪意のない顔をしているときは本当に良い奴なのに。 時計を見るともうそろそろ昼に手が届きそうな時刻であった。 「で、昼飯にでも誘いに来たのか?」 これは単なる希望的観測だ。 そして、腹が減っているという状態を端的に知らせてやろうという意図も有る。 「奢ってくれるの?」 小首を傾げて尋ねてくる。 …大の男が何をやってるんだ、という気持ちが半分。 残りの半分は、まぁ、向こうの意図通りだろう。 「…定職に就けない可哀想な奴に奢ってやるぐらい何てことねぇよ」 ちょっと悔しいので素直に「最初からその予定だった」とは言わなかった。 「あ、ひどーい。でもドタチンのそう言うところが好きだなぁ」 それを知ってか知らずか、臨也は例によって人好きのする笑みを浮かべるのだった。

あれ、おかしい。 シズイザより凄く書きやすいぞ。 どういうことだ…笑 2010/02/12