欲しかったものは、結局のところ何一つとして手には入らず、
繋がれた鎖と、自由にならない腕だけが残された。
泣き方を思い出せないのは、何故だろう。
cry
「ねぇ、どうして君は泣いてるんだい」
暗い、部屋。
でも瞳を閉じればどこにいても構わない。
目の前にいるのがあの人でなくとも構わない。
「どうして、今泣くんだい」
脳裏に焼き付いて離れないのは、あの人の笑顔だけなのだと言ったら、貴方は嗤うでしょうか。
愚かな奴だと、嗤ってくれるのでしょうか。
「…やっぱり、言わなくていいよ」
金糸が掠めた時の感触が、一緒だ。
どことなく甘酸っぱいような香水の匂いも、同じ。
「…俺が聞きたくないことだろうから」
誰に言ったのでもない言葉の、その諦めた様な口調がどことなく重なって聞こえる。
何気ない一言の、少し低めに響くのにぞくぞくとする。
「だから…」
きつく。
骨が軋みそうなぐらいきつく抱き締めて、それでもその続きは言わなかった。
酷い事をしている。
そのくらい分かってる。
だが、彼が気付いていようといまいと、関係のないことだ。
いや、気付かない訳が無い。
時折見せる苦笑いに、心が痛まないわけではなかった。
でも、仮に痛んだところで、私にしてやれることなんて何も無い。
ただ大人しく彼の言うことを聞いてやることだけが、私にできる唯一の贖いだった。
彼は明るい笑顔でこの手を取って色んな所を連れ回す。
疲れもするが、色々と珍しいものを見せてくれるので飽きはしなかった。
「ね、すごいだろ?」
新しいものを見せに来るのが好きで、其れを得意げに紹介するのも好き。
何だか幼い子供…そう、孫でも出来た様な心境で微笑ましく眺めている。
「そうですねぇ」
それでも。
そう、可愛い孫のようなこの男を「愛してやる」ことは出来なかった。
もし、彼があの人に微塵も似ていなければ。
或いは彼のことを愛することが出来たかもしれない。
恋しく思うには
彼を彼としてきちんと見るには
少しばかり、あの人に似すぎていたんです、貴方。
「いたっ…」
首の根元に走った唐突な痛みに、思わず声を上げた。
抗議すべく睨み付けると、
「…俺は謝らないからね」
などと開き直っている。
…自己主張の仕方があんまりではないか。
「君があんまりにも上の空だったから、いけないんだぞ」
口調こそ軽いものの、批難には悲痛な色があった。
こうなると、もう、駄目だった。
…この手の罪悪感には、耐えかねる。
「これ…痕になったらどうするんですか」
あきらめて彼の前髪を梳かしてやる。
すると、いつも通りのあの顔で、
「…その為にしたんだから」
と口にした。
―――泣いているのは、私ではなくて、貴方の方じゃないですか
誰かの心を軋ませながら、私も結局は自由にはなれない、なんて。
さて、誰が悪いんでしょうね。
何が、いけなかったんでしょうね。
そうやって何もかもを傷付けて楽しいとでも思っているのですか。
会ったことも無い神様とやらに、殺意にも近い苛立ちを覚えた。
暗いのはいつものことですが、なんだか米日はめりたんが一方的に不憫な気がして心が痛みます。
いや、でもちょっと可哀想な彼が好k(略)
多分、いぎーが菊様の心を盗んだままなのが悪いんですよ。
…次の話こそは、ちょっと報われそうなのを書きたい。
書こう、書くべし。