彼の期待通りの真面目さに、好感を持った。
歴史の長さから来る余裕は敬意に値した。
二度目に同じ戦場に立った時、彼は自分の敵だった。
英国の敵であった自分は、勿論彼の敵でもあったのだ。
―――本当の敵は、どこに居たのか
だが、彼は何故か自らの同盟国の敗北を…否、こちらの勝利を望む風に見えた。
自身は前よりも格段に強くなり、影響力も大きくなっていたにも関わらず、彼は震えていた。
青ざめ、怯え、祈るような顔で戦場を眺めていたのだ。
彼の敵は、誰だ?
彼が同盟国である英国と仲が悪くなったというような話は聞かなかった。
…ある時、急に同盟は拡大解消された。
それは、間違いなく彼の孤立を意味するものだ。
結果的に自分や伊と同盟を組むことになったのも、国際的に孤立したからに外ならない。
「これから、よろしくお願いしますね」
努めて明るく振る舞ってはいたが、彼の表情には時折暗い翳りが見えた。
世界に対する絶望と、己の行く末への諦観のような物が、彼を支配していたのだろう。
―――お前の平和はどこにある?
時計の振り子の音が、メトロノームのように響く。
規則的な―――それこそ眠気を誘うような音。
「…日本は、もう少し自分に優しくならなきゃ駄目だと思うな」
話題の当人は不在。
何時もより少しばかり真面目な声音だ。
或は、聞くべきではない独り言を拾ってしまったのか。
「…お前は自分に優し過ぎるがな」
静かな沈黙。
普段なら彼が黙り込むことなどまず有り得ない。
気になって視線を遣る。
小さく丸めた背中。
…寝たのだろうか。
「なんでうまく行かないんだろうね」
と呟く声が聞こえた。
それは、何度も巡らした思いだった。
どうして、何もかも―――誰にでも、世界は平等に愛を与えないのか。
「…それが世界だからだ」
迷いを断ち切るために…彼のためというよりは、自分の為に言葉を発した。
自分にも悲観主義は浸透していたらしい。
お互いに生き残る為には命をかけざるを得ないのは、道理だ。
誰もが譲れない、譲ることなど出来ない。
「仲良くしたいな…みんなと」
させてくれるなら、こっちだってしてるさ。
「…だから、早期に決着を付けなきゃならん」
長引けば長引く程不利になる。
…いや、もう既に大分戦況は悪化している。
「俺は日本もドイツも心配だよ」
まさか、自分の事まで心配されているとは思わなかった。
「どうしてだ?」
何かを言おうと伊が立ち上がった瞬間に、
「…遅くなりました」
と掠れた声がした。
「日本!」
伊が叫ぶのと同時に彼は床に崩れた。
「大丈夫か!」
駆け寄って確認すると、酷い熱と痣だらけの腕。
「誰か、衛生兵!」
叫んで届く距離に居なかったら、どうすれば…
「あの…俺、呼んで来る!」
だから、ドイツは日本の側に居てあげて。
走りながら、彼は言い置いた。
「日本、大丈夫か?」
落ち着け、冷静になれ。
焦っても自分には何も出来ない。
だから…
「…ドイツ、さん」
呻くような声だ。
「私…一時間も遅刻、してしまって」
何を言うかと思えば。
時計の音が妙にはっきり聞こえる。
かち、かち、かち、と規則的に聞こえるのだ。
…宛ら、刻一刻と迫る破綻の足音のように。
「そんなの構わん。それより、この熱…」
すると、彼はその瞳を閉じた。
「日本?」
「…世界は余程、私が嫌いなのだと見えます」
その穏やかな…或は疲弊した口調に、
益々、世界の悪意を知った―――
無彩色メトロノーム
暗い話が好きです。
でも、枢軸はきゃっきゃしてるのも好きです。ざっつお花畑。
ていうか、幸せにしてやりたいんですよね、ほんとは。
まぁ、そもそもの設定が…うん…