会議の資料に目を通しながら眠い目を擦る。
さっさと寝れば良かったのだが、寝るタイミングを見失って今に至る。
キリまで読んだら、と思っていたのだが存外キリまでの道程が遠かったのだ。
で、そこまで読み切る為にコーヒーで眠気を覚ましたら、今度は寝られなくなった。
仕方がないから予定していた所よりももう少し読み進めてみた。
が、何だか頭に入っている気がしないのでそこは潔く諦めることにした。
「あー、全くもう。議長国なんてやらなくて良いのに」
誰に言うでもない愚痴が零れる。
強いて言うなら前回議長だった奴か。
続投してくれて構わなかったのに。
寝ようと思えば思うほど寝られなくなってしまう物である。
取り敢えずシャワーでも浴びて気分を変えることにしよう。
そう思って引き出しの中のタオルを探す。
made in japanの文字に思わず口元がにやけた。
本来ならば自国製品を使って当然の所だろう。
ただまぁ彼からの貰い物なので、使わないのも失礼だ、という訳なのである。
…というのは見事な建前なのだが。
カーテンを引いてコックを捻る。
疲れた時は熱めのシャワーを浴びるのが一番良い。
何もかも流しきれば随分とすっきりするものである。
だから、何も考えずにシャワーを浴びるのが一番正しい方法だろう。
そう解っているのだが、資料に目を通していたせいでやや頭が働きすぎる。
あれこれとどうでも良い事ばかり思いついた。
世界という物を損得で考えた場合。
俺ばかり損している気がするのは、考えすぎだろうか。
もしかすると、自己愛が強すぎるのか。
何れにせよ、貧乏くじを引く方が多い気がするのだ。
と言ったら恐らくは「私はその倍ほど引いてますが」と返されそうである。
…まぁ、其れも尤もだ。
自分が引く貧乏くじの大半は彼と共有する事になるような代物なのだから。
そう言う意味では損とカウントするのが申し訳なくも感じる。
ただ、他の部分で補填不可能なほど赤字損益を出しているのだから、やっぱりトータルで損かも知れない。
髪の毛を拭いてドライヤーで乾かしている間だけは、少し落ち着いた。
鏡に映っているのはどこからどう見ても二十歳前後の青年だ。
若い内は苦労しなさい、とか、そう言うことを言われているのだろうか。
にらみ合った自分は、少し苦い顔をしていた。
そんなことをぐずぐずとしていたら夜が明けてしまった。
次にこの太陽は彼の元へ行く。
だが「今日」を届ける為ではなく、彼に「明日」を届ける為に行くのだ。
どうにも釈然としない思いを抱えた。
そしてその元凶が自分の「兄」に有ることを思いだして、溜息を吐いた。
いつまで経ってもあれにはやきもきさせられる。
煩いし面倒だし友達居ないし。
そして思ったことが十中八九自分に返ってくる辺りがやるせない。
他人に指摘されれば絶対に否定するところだが、自分で気付いた物に関してはどうしようも無い。
彼に対する苛立ちは半分以上自分に対する不満だ。
鏡像を見ているかのように、自分のアラが浮き彫りにされていく。
其れを不愉快と言わずに何と言えばいいのだ。
なんて言うと「それでも貴方の一番の理解者でしょうね」だとか言いそうだ。
君は理解してくれないのかい、と言えば当然の如く困った顔をして、
「本質的には大変遠いですからねぇ」
何て言うに決まっている。
そんな時だけは普段のお世辞やら何やらを忘れるのが彼の良くない部分だ。
ただそんな彼だからこそ未だに俺に付き合ってくれるのだろうが。
他の連中に比べればそりゃ随分と若い。
青臭いと思われているかも知れない。
無論、彼にしてみれば「ひよっこ」も良いところだろう。
だが、実際問題彼は俺が居なければ国として立ちゆかない。
それほどまでに依存させたのは自分だ。
確かに彼に打算がないとは言えない。
当然彼だって自分を護る為の選択をする訳だから、計算だってしている。
計算した上でそれでも自分を選んでくれるのなら大歓迎だ。
だって俺たちの付き合いなんてそんなもんだろうって。
そこまで割り切るのにどれ程時間が掛かったかって延々主張したいところだけど止めておく。
水面下の努力を見せたらヒーロー失格だろ?
代わりに少しばかり彼に我が侭を言ってやろうと思っている。
「まったくもう…」と言いながら世話を焼いてくれる彼がとても愛おしい。
友達でも孫でも何でも無い俺が、一体どんな積もりで側に居るかは未だ言わない。
察しの良い彼の事だから、何となく解ってはいるかも知れない。
けれど、断定することはお互いの為に避けている。
所で俺がこうして取り留めもない考え事をしているときに彼は一体何をしているのだろうか。
また徹夜でゲームなんてしてないだろうな。
流石にあの歳でゲーム三昧は身体に良くないんじゃないか。
「爺はまだまだ現役ですよ!」ってこの前怒られたな、そう言えば。
現役なら、もう少し精力的に俺に構ってくれれば良い物を。
そんなことを考えていたら居ても立っても居られなくなって、結局すぐさまフライトの手配をすることにした。
排他的世界観
副題:意外と彼は考える人。笑
うだうだしているめりたんかわゆす。