どうやって
そう、一体どうやって見つけるつもりをしているのかしら
どんなに下を向いて探しても、そんなところに"空"はないのに
歪む空
壁に体を預けて、瞳を閉ざす。
ここの壁は、少し白すぎるのだ。
どうしても、彼と面会できるような気分ではなかった。
なかった、が。
全く会いに行かないというのもどうかと思った。
一応、かつてはそれなりに…いや、相当親しくしていた相手なのだ。
それなのに、あれ以来まだ一度も顔を合わせていない。
合わせ、られない。
病室のドアに手を掛けて、そのまま何分か立ち尽くしていた。
ここを開けても良いのか。
彼に、会っても良いのか。
いや、そもそも会ってどうする気なんだ。
そんなことを考えていたら、いつの間にか手を下ろしていた。
「今日じゃなくても…良いよな」
誰に聞かせるつもりでもなく呟いて、廊下を引き返した。
会ってはいけない、と思ったのだ。
会えば、お互いに苦しい思いをする。
泥沼のように、足を取られて。
そうして、後悔するに違いない。
言い聞かせるように繰り返して、終いには自分が本当はどう思っていたのかさえ分らなくなった。
「会わないほうが、良いのか」
口に出せば酷く簡単で、そして、後味の悪い苦さだけが残った。
それは、無理に断ち切った感情への未練か。
或いは、感傷を得るための義務的な痛みなのか…
息を吸うのも苦しければ、吐くのもまた肺を痛める。
恐らく、それは目に見える疲弊や傷によるものではないのだろう。
無論、怪我一つしなかった、という訳にはいかなかった。
体中に無数の傷やら痣やら。
未だに完治はしていない。
それでも、多分会わなかった彼よりは幾分かましだろう。
痛みが主観的な物だとしても、それは疑いようのないことだ。
「…掛ける言葉が、無いんだよ」
元々、そんなに饒舌なほうだとは思わない。
寡黙な訳でもないが、そんなに流れるように言葉を思いつきはしない。
少なくとも、言わなくてはならない最低限の事柄さえ出てきやしないのだ。
「お兄さん、お前をそんな暗い子に育てた覚えはないぞ?」
思わず目を開けて振り返る。
いつも通り、もっと品の無い(造作は悪くないが)表情でもしていれば良いものを
「ああ、今日はえらく男前だなフランス」
露骨に"気を使ってます"なんて顔をされても、どうすれば良いのか分らない。
「…嫌味はもっと巧く言うんだな」
ああ、そうだった。
嫌味の一つでも言ってやらなきゃ。
そうでなきゃ、他に言うことなんて…もう…
「今はお前に絡まれたい気分じゃないんだ、悪いな」
「そうか、だけどこっちは今正にお前に絡みたい気分なんだ、悪いな」
本当に、鬱陶しい事この上ない。
何で、そんなに真面目腐った顔をしてるんだ。
まじまじと見つめられてもいい気分じゃない。
「…俺が、暗いんだとしたら」
仮定がそもそもおかしい。
だとしたら、じゃない。
現に、今の自分は底抜けに暗いのだ。
それなのに、奴は否定しない。
無言で、俺が続きを言うのを待っている。
「…それは、別に本来俺の持っている性質じゃない」
言いたいことがはっきりと言語化できない。
それが、自分にもつかみかねている事だからなのか、それとも。
「だから、俺がお前に心配される筋合いなんて無い」
臓腑を搾り出すような、重々しい空気。
でも、どう考えてもたいしたことは口にしていない。
だというのに、この気分の悪さは何だ…?
「…まぁ、お前が大丈夫だって言うなら良いんだけどな」
殴りつけてやりたいぐらい腹が立ったはずなのに、それを実行する気力さえ持ち合わせていなかったらしい。
ただ視線を逸らすことで、返答する意思がない事を示してやる。
「お前も辛いだろうけど、多分日本も」
「それ以上、言うなよ?」
お節介なんて、真っ平ごめんだ。
そう、こんなところに長く居るからこんな奴と遭遇したんじゃないか。
さっさと帰って紅茶でも飲んで、全部忘れよう。
それが、いい。
「おい、イギリス…」
「帰るんだよ。…付いてきたら撃ち殺す」
廊下の先の窓には何一つない、空が見えた。
不安気な、蒼褪めた色合いに、急に笑い出したいような気分になった。
今日は持ってこなかった銃の、引鉄の感触を思い出しながら。
日本とイギリスのつもり。でも日本が居ないと仏英にしか見えないのは趣味であります。
ていうか、まぁ、仏英も好きなんで、どうとでも・・・笑
微妙なシンクロニシティ。それが島国クオリティ。
追記:捩れた痛覚とセットでした。カプが混乱しているのは偏に趣味です。笑
2011/04/03