溜息を吐くことが増えた。
多分、自分も大人になってしまったんだろう。
そんなの、嫌だな。
そう思っては見るものの、止め処なく吐いてしまう溜息に、諦めの感情が湧き出した。
「ああ、なんでこう…まぁ良いや」
短縮を押して、彼に連絡しておこう。
お土産は、何にしよう…?
恋ですらない
世の中、うまくいかないことばかりだ。
「全く、彼と戦うには団結が必要だっていうのに、解らない奴らだよね…」
NATOの方はなんとか纏まったが、問題はそれこそ自分の膝元の話である。
「みんな身勝手に好き放題言うしさ」
ほんと、頭の痛いことばっかり。
それだけではない。
「第三の勢力とか言って、いつも微妙な邪魔をしてくるしさ」
面倒なのは彼だけではない。
寧ろ、それ以外の意思をどうやって統一するかという事のほうが余程面倒だ。
もう、何だか疲れてきた。
「ねぇ、日本…俺間違ってるのかなぁ…」
彼は髪を梳いていた手を止めた。
「貴方自身はどう思っているんですか?」
曖昧に笑ったまま、彼はこちらを覗き込んでいる。
眇められた瞳には、意思らしき意思を見つけられない。
「…どうなんだろうなぁ…」
振り返ってみても。
今まで、自分が間違ったと思った事など無い。
だが、漠然と…そう、多分これは疲労だ。
「解らないんだ、俺には」
考えることに疲れてしまっている。
膝枕で、静かに髪を梳いてくれるような存在に、何より飢えている。
利害の衝突が無い、それで…
「私は、貴方に従うだけですから」
そう言って、頬に手を添える。
…ああ、ほんとに…
「日本、疲れたよ」
いつもより少し喉が掠れた。
気付かれたかな…いや、気づいてくれればいい。
「それは最初にも聞きましたよ」
首を傾げ、柔らかい微笑を湛える。
聡い彼の事だから、もう何を言おうとしているかは分かっているのだろう。
「うん、だからさ………」
彼の手を取って、指先に軽くキスを落とす。
細い、指だ。
「慰めてくれよ、君が」
彼の唇が、薄く開いた。
「子守唄でも歌って差し上げましょうか?」
性質の悪い返事だ。
皆まで言わせる気か。
「それも良いけど、今はもうちょっと不純な気分だね」
…そう、不純なんだ。
優しさに飢えて、でもそれ以上に支配欲を持て余した。
この欲求のはけ口を、俺は他に知らない。
「不純?ああ…いけない人ですね」
くすくすと、それこそいけない笑い方をする。
時折彼の中に、悍ましい魔性を見る。
「そういうの、嫌いかい?」
すると、こちらが伸ばした手を捕まえて、
「いえ、好きですよ」
と、音を立てて指に口付けた。
………どうして、いつもこうなんだろう。
どうして、ただ好きなだけではいられないんだろうか。
汚らわしくて、でもとても甘美な。
彼は何も言わずにただ溺れさせてくれる。
疲れも、何も、全部受け止めてくれる。
でも、自分が与えられるのは痛ましいだけの快楽と、彼を守るための腕、だけ。
純粋に愛することさえも出来ない。
苛立ちやら、怒りやら、そんな負の感情が変質したような衝動をぶつけるのは良くない。
そのくらい、分かってる。
分かっていても、それを自力でどうにか出来るほど大人になりきれない自分が恨めしい。
「本当にお疲れのようですね」
頬に触れる手が、熱い。
返事をしようとして、喉が詰まったように声が出せなかった。
おかしい。
なんで、今…
「泣くほど、辛いことでも有ったんですか?」
言われて初めて、自分が泣いていることに気が付いた。
「…ぁ…あれ…?」
じわじわと、次から次へと出てくる涙を、どうやったら止められるのか。
自分では最早どうしようもないようだ。
「…大丈夫ですよ。誰にも言いませんから」
よしよし、と子供をあやす様に彼は背を撫でた。
「君…このタイミングでその扱いは無いんじゃないかい?」
冗談を言えるぐらいには落ち着いたらしい。
でも、ぞくぞくと、悪寒にも似た感覚が広がる。
ああ、良くないな。
「なら、大人として扱いましょうか?」
「…ああ、頼むよ、日本」
俺は…最低だ。
(これは、恋じゃない。そんなに綺麗な物じゃないんだ)
メリたんがAKYで、実は凄く純粋な部分と、それを護るための外皮としてのKYを持ってるのかしら、とか考えてるうちに出来た話。
登場キャラクター中で、彼が一番潔癖に見えるのは気のせいかしら…(笑)
なんか自分の欲求とかに一々不快になってそう…な気がするけどなぁ。
そんなに大人じゃないんだよ、みたいな。
追記:こんなかんじの米日が好きです。未だに。
2011/04/03