※発作のような現パロ。

無垢の子

「あいつはちょっとおかしいんだよ」 数名で陰口を叩いている。 誰のことを言っているのかは最早訊くまでもない。 「豊臣のことしか頭に無いしな」 ―――やっぱりだ。 しかし、その一言を聞かずとも、ここで陰口を叩かれるとすればあの男―――三成か、大谷か、己の三択だ。 「この前も傘で何人か怪我させたらしいしさ」 これ以上聞いていたら口を挟んでしまいそうなのでその場を急いで後にした。 「確かに怪我はさせたが、先に手を出したのは間違いなく相手側なんだろうなァ…」 誰に言う訳でも無く呟いた。 三成は決して非戦主義者という訳ではない。 どちらかというと血の気が多い方だとも言える。 しかし、無意味に暴力を振るいたがるような人間ではない。 得物が傘、というのも、偶々手に持っていた物で防御した結果そうなっただけのように受け取れる。 「下手に強いから、尚のこと厄介なんだがな」 自分の信念を決して曲げず、潔白過ぎ、融通が利かぬ。 人間の極めて模範的な姿にも見えるのに、それは決して人間らしくは見えない。 抜き身の刃のような男なのだ。 それがきっと、万人の癪に障る。 限られた一部の人間には慈しまれ、寵愛される。 彼の養父にも、盟友にも、心の底から可愛がられている。 だが、それはあくまでも例外だ。 或る者には純真無垢な子供の姿に見え、或る者には鋭い悪意の表象に見える。 それは酷く恐ろしいことだ。 / ―――一度殺してみないと、分からない。 壊して、断ち切って、無くして、空っぽになって そうして自分のしたことの重さに漸く気付いて泣いた。 しかし 泣いたら全て手に入るなんて、そんな都合の良い事がある筈もなく、 九十九を手に入れるために一を永久に失った。 幸せだった。 望んでいた物は 殆ど 手に入り、平和な世を作り、子孫を残し、皆に愛されて生き抜いた。 感謝もされた。 自分の見てきた世界は、本当に美しい物ばかりが残った。 よもや、「徳川家康」が発作のように悪夢に魘され、半時以上涙が止まらず、 「仇敵」を想って寝床の中で独り呻いていた等と、誰が信じようか。 九十九と一を天秤に掛ける事が出来るかどうかを、あの時の自分は考えなかった。 より多くを救うためなら、一を切ることなど容易いと 正義が言った。 一の為に九十九を犠牲に出来る程の大義がお前に有るのかと 良心が言った。 しかし何よりも 三成なら分かってくれると 甘えていたのだ。 その甘えの本質が、あの慟哭の理由が、 拗らせたまま息の根を止められた恋心だと気付いたのは、世界が遮断される三秒前だった。 / 「因果な物だな」 そうでなければ、余程執念深かったか。 確かに死んだはずの「徳川家康」の記憶を持った別の人間として今ここに生きている。 奇妙な感覚だった。 身体はまだ若いのに、その中身だけが一度死んだ男なのだ。 「小学生」になる頃に、急に何もかもを思い出した。 消し飛んでしまったこの身体相応の自我は一体何処へ行ったのだろう。 或いは、最初から己のために誂えられた身体なのか――― 分からないことだらけだったのに、彼を見た瞬間に全てがどうでも良くなった。 『三成…どうしてお前が…』 我ながら間抜けな一言だった。 再会早々何を言っているんだ、と言ってしまってから気が付いた。 『誰だ…?』 そして極めて順当に反応されて、頭を殴られた様な衝撃を受けた。 第六感だか何だか知らないが、自分の内側で彼は確かに「石田三成」なのだと分かっている。 しかし、どうして彼が自分の事を知っていようか。 彼の敬愛する主を殺し、彼自身をもその手に掛けた男のことなど、どうして覚えていられようか! 小首を傾げる男に一言だけ、 『お前に一生を掛けて謝らなくてはいけない男だ』 と名乗った。 ―――今思えば、単なる不審者である。 それをよくもまぁ自然に受け入れて貰えた物で有る。 剰え、 『妙な奴だな。名前は?』 と興味を示して貰えたのだ。 石田三成とは、そういう男だったようだ。 それからという物、学生という身分に甘んじて自分が殺した男の側に居座っている。 何もかも奪い取っておきながら、知らない顔で笑っているのだ。 「…噂をすれば何とやら、だな」 部活帰りか、竹刀袋を背負った三成が歩いてくる。 覚えていなくても何かが抜けないのか、彼は相変わらず剣の腕に優れていた。 石田に棒状の物を持たせるな、と方々で囁かれる。 木製バットだろうが傘だろうが杖だろうが、彼が持てば白刃と違わぬ。 あの頃と違うのは、人殺しが非合法である、ということだけだ。 法の枷は思いの外重く、あれほど躊躇いなく人を殺していた男が未だ奇跡的に一人たりとも殺していないようだ。 「家康、どうしてそんなところで突っ立っている」 黒の詰め襟が本当によく似合っている。 据わった目も、眩しい白銀の髪も、あの頃と寸分違わない。 口調まで、どこか似ているのだから面白い。 「酷いなァ、お前が終わるのを待ってたんだぞ」 横に並ぶと、きっと睨み上げられた。 ああ、懐かしい。 「待てと言った覚えは無い」 相変わらず手厳しい。 しかしこちらには奥の手がある。 「まぁ、そう言うなって。肉まん奢るから」 空きっ腹に今の一言は効いた筈だ。 「食べ物で私を釣ろう等と…」 そう言いながらもさっきまでの刺々しさは薄らいでいる。 ―――こうしてみると、本当に可愛い奴なのに。 時代が変わってもやはり理解され難いのは宿命のようだ。 「今度こそ、上手く行くと良いな」 独り言は、空気に溶けて消えた。 その意味を知っているのかいないのか、三成はただ黙って隣を歩いていた。
設定とかきちんと考えずに打つからこうなる。 でもやっぱり戦国のあの時代に生きているというか、 ゲームの中に生きている設定をきちんと生かして書きたいんだ、本当は。 しかしたまに言葉の制限が煩わしくなったりとかしちゃうんだ。 あと、映画の時間軸が本気で気になります。 何?みんなで温泉行っちゃう系のギャグ短編が付くんですか? 違いますか、そうですか。 2010/09/30