嘘を吐くのは好きではない。 だから本当のところ、他の誰を殴る時よりも堪えた。 ―――を裏切ったな その目が何よりも雄弁だった。 そして、それに対する答えが全て嘘になりそうな気がして 結局最後の最後まで逃げ続けてしまった。 答えを 出すことそのものが 嘘のように思えたのだ。 しかしまた懺悔は都合の良い妄想に過ぎない。

甘い後悔

いつ。 一体どの段階で彼に打ち明ければ良かったのだろうか。 ああ、いや。 話したところでその場で打ち首にされたであろう光景しか浮かばぬ。 「盲目な忠義は最早狂気と大差ないのだな」 確かに自分の家臣にも十分言えることだ。 だが傍目に見て彼の主への心酔ぶりは度を超していた。 崇拝だった。 豊臣秀吉という名が彼の中で神格化され、一切の否定を許さぬ存在になっていた。 その名を汚す者は何人たりとも許さぬ。 そう豪語して憚らなかった。 「それも含めて、理解できるはずだと思っていたんだ」 三成は又、異常なまでに潔癖であった。 彼の世界には善と悪しか存在しなかった。 端的に言えば 豊臣か そうでないか。 神託を受ける巫女のように、それはそれは清い人間だったのだ。 たとえ授かる命が酷く血腥い代物であったとしても。 彼にとってそれは何にも代え難い使命であったのだろう。 従順にして完璧であった。 潔癖で融通の利かぬ性格であったが為に、常に悪意の矢面に立っていた。 無論彼自身は一切気にしている素振りを見せなかった。 少しは気にした方が良かったのではないかとこちらが冷や冷やしていたぐらいだ。 第一、口が悪すぎた。 決して言葉が汚いのではない。 だがあんまりに鋭い口調は、誤解してくれといっているような物である。 直せば良かろうという進言は、「ならお前が言い換えろ」と突っぱねられた。 まぁ、そこで直すのなら石田三成ではなかっただろうが。 彼が言うことを聞くとすれば、「豊臣秀吉」の命に於いてのみだったのだろう。 こちらの言葉は清々しいほどに届かなかった。 しかしだ。 彼も又人間であったはずなのだ。 自分が血の通った人間であったように、彼の身にも熱い血が通っていた。 不正に神経を尖らせる真っ直ぐな男だった。 彼の信じる正義に何よりも恭順であった。 まるで自分を痛めつけることが生き甲斐であるかのような求道の、 「だから、こうなるのは宿命だったのかもしれぬな、三成」 生きること全てを放棄し、 感情という感情を煮沸させ、 何も生まないと解っていながら、 「必ずワシを殺しに来るのだと」 ―――最初から解っていたのに。 刻の流れ、という、誰にも防ぎ得ぬ破滅を待たなかった。 待てば、それだけ血が流れることがわかっていたから、待たなかった。 待っていれば、石田三成という人間を徹底的に破壊することもなかっただろうに。 そう、「彼を」裏切ることもなかったっだろうに。 ―――私を裏切ったな 一瞬交錯した視線。 心臓を一突きするような圧力を持った殺意。 その一番奥で、彼は確かに絶望したのだ。 豊臣を裏切った 秀吉様を裏切った 彼の理性は上からそう書き込んだだろう。 しかしあの僅かの間、彼の神経を支配していたのは、彼自身への裏切りに対する拒絶反応だった。 だからこそ こうして彼は ここへ死にに来たのだ。 「お前から全てを奪っておいて、今更生きろというのは傲慢が過ぎると、そう、」 声にならなかった。 喉が握りつぶされるように、息が詰まる。 目の覚めている間はあれほど恐ろしい形相をしていたのに、その死に顔のなんと安らかなことか。 やっと彼の敬愛する主と同じ場所に行けるのだ。 それは願ってもやまない事だったのかもしれない。 「―――勝てなかった」 最後の最後まで、勝つことができなかった。 それほど神聖で、崇高で、気高い絆だったのだろう。 それが今は、息の出来ぬほど悔しい。 今になって なのか 今だから なのか それすらももうわからぬけれど 嘘を吐くのは好きではない。 それ故に 「何一つ残らず、お前が欲しかったのだ、と言ったら怒るか?三成」 惨敗した、後悔だけが甘い。
ほうほーう!(虎操兵的な) やっと家康殿の登場だよ。しかしいきなりこの捏造具合である。 だって孫姐と三成と幸村しかクリアしてな…えふえふん。 という訳で漫画を読んだ感想に変えて。 2010/08/20