砂漠幻想

二度と幸福な未来など描かせない。
二度と太平の世などと口にさせない。
そんな傲慢を、誰が許すというのだ。

…そうだ。

お前の触れる物が全て砂に変わればいい。
大切な物に触れることも出来ず、食べることも適わず、飢え、渇けば良いのだ。
世界の全てを渇望して、それでも何もお前の手には残らない。

滑稽だ。
最高に愉快だ。
さぞ辛かろう。
何をも自分の手の中に残らない虚無感に絶望すると良い。

そうして、自分に自分で触れてみると良い。
何も残らないのなら、自分も砂になれればそれで終わると思うだろう。
そうは行くか!
お前だけは、そのまま、生き続けるんだ。
砂になって消え去ることも許されず、生き続けるんだ。

完全にお前の心が砂になったら、そのときに首を落としてやる。
今までの所行を全て懺悔して、それでも生きたいと赦しを請うお前の首を刎ねるんだ。

砂の海で、孤独に溺れるお前を 俺が殺す

―――ああなんて 面白い。
面白いんだ。
そうだろう、石田三成よ。
面白いと 言え




…言えるわけが、無い。
砂に埋もれて、声を出すことさえ出来ないのだ。
口を開けば直ぐさまあの味気のない質量に肺が潰れるだろう。

何れ息が出来なくなる。
その前に熱で焼けてしまう。

ああ、太陽め。
お前のなんと憎らしい事よ。
私の何をも照らしてくれぬ癖に、目を潰し喉を焼こうなどと。


抗うように目を閉じても、薄い瞼では光を防ぎきれない。
咳き込み、砂に浸食されていく躰。

―――水が、欲しい




「三成、大丈夫か」

蝉の鳴き声が耳を裂く。
青々とした景色が、捻れ、揺らめく。
今、何刻だ。
違う、そんなことはどうでもいい。
何を、

「………どうした、刑部」

瞬きの様子で、呆れを読み取る。
しかし、状況が状況だ。
反論の余地などどこにもなかった。

「軍議をしていた筈だが……その調子では半分も聞いていまいな」

どことなく顔色が悪いようだしな。
付け足した風に言ったが、恐らくそちらが本当に言いたいことだろう。
自分の顔を見ることは出来ぬが、恐らく酷い相だ。

「…済まない」

話を聞いていなかったことも問題だが、心配を掛けたことに申し訳なく思う。
本当に心配しなければならないのは自分より、目の前に居る男の病状の方なのだ。

「寝食すらろくにせぬようではあの男を八つ裂きにするより先にお主が干涸らびるわ」

背筋が粟立つような感触。
或いは切っ先を喉元に宛がわれたような怖気。

「刑部…私は寝言でも言ったか」

その口調から何事か察したのであろう。

「三成。凶夢は言わぬことよ」

それだけ言って、水を寄越した。

刑部と凶王に夢を見ている。相変わらず家康が居ない
2010/08/14