眠れぬ病

未来など欠片もない、言わば目的のための目的を疾走する。
成就した先がどうなろうと、そんなことは知ったことではない。
それは、己の問題ではない。
自分にとって関係が有るのは、いかにしてあの男を絶望の底に叩き落とし、
屈辱の限りを味あわせるかと言うことなのだ。
自分から、何もかも、―――大凡未来と呼べるような代物を総て剥ぎ取ったあの男を。

奴の心から信頼する部下を八つ裂きにして引き回せばいいだろうか。
それとも目の前で一人一人斬首してやればいいか。

ああ、足らぬ。
そんな生ぬるい方法ではどうしようもない。

愛する君主を奪われた憎悪を、
生きる理由を失った虚無感を、
そんなものでは埋めきれない。

どうしてくれよう。どうすればこの怒りを収められるだろうか。

殺したぐらいでは足らない。
指を一本一本切り落とすように、その身を業火で焙るように、
この怨嗟で神経という神経を焼き落としてやりたい。

「何もかも、奪っておいて、これ以上」

これ以上、私から何を奪おうと言うんだ。

もう何も取り返せない。
我が手元に残されているのはお前への煮え滾る殺意だけだ。

心すらも お前に奪われて ここには無いというのに。

「返せ、返せよ、返してくれ」

私の心を 時間を 安息を 返してくれ。
そして、今はただ眠らせてくれ。
何もかも忘れて

「あははははははは…戯れ言よ」

成らぬ事をどれ程思ったところで何の足しにもなるまい。
それよりも、何よりも、

「先ずはお前を殺す。それからだ。…なぁそうだろう?」

嗄れた喉が痛む。そうだ、お前を呼び疲れたんだ。
分かるだろう?
もう 何も―――

いろいろと可哀想な凶王が好き。
2010/08/11