文と徒然


余りにも険しい顔をしているものだから、てっきり機嫌が悪い物だと思っていた。
読んでいる文書が気に入らぬのかと、覗き込んでみたら、誰かからの手紙であった。
では相手が好かぬのか。

「三成殿…何故そんなにも怒っていらっしゃるのです」

気になって聞いてみたら、

「ん?怒ってなどおらぬよ」

と予想外の答えが返ってきた。

「ですが、三成殿。それは相当険しい表情に見受けられますが…」

すると、はぁ、と息を吐いて、彼は文を投げ出した。

「字がな、読めんのだ」

彼程学のある人間が、読めぬ、とは一体如何ほどに難いのであろう。
想像も出来ないような怪文書を思い浮かべて頭が痛くなった。

「…幸村、断っておくが、俺は決して中身が読めぬと言ったのではないぞ?」

勘違いするなよ、と視線が刺さる。
…非常に申し訳ない思いをする。
どうやら彼の読み通りの間違いをしていたようだ。

「では、何が…」

「だから、言ったろう。字が、読めぬ。もう少し上手く書ける奴に代筆させれば良い物を…!」

そう言って、ばたん、と身体を仰向けに倒してしまった。

「それ程に酷いのですか」

「…ああ、酷い。お陰で頭が痛くなった」

彼が投げ出した文を再度流し見る。
しかし、達筆であるようにしか見えないのは、自分にそういった物を見る目が無いからだろうか。

「それは大変ですね」

「ああ、代わりに読んではくれまいか」

ひらひらと、面倒臭そうに手を振っている。

「ですが、三成殿への私的なご用事だったらお困りになるかと」

「俺に私的な用事など無いさ」

あまりにもさっぱりと言い切られてしまってはとりつく島もない。

「私…や、兼続殿が文を書けば、それは私的な用事に入るでしょう?」

咄嗟に名前を足した兼続殿には内心で謝っておいた。

と、彼は僅かに身を起こす。

「直接会いに来れば済むだろうが」

真っ直ぐな目がこちらを見つめる。
妙に居心地の悪い思いをしながら、その視線を受け続ける。

「ほら、その…会っては言えぬ用事も有りますでしょうし」

「はん、面と向かって言えぬ事など、大した話でもあるまい」

そう言ってまたごろりと畳に身体を預けた。


容赦のない人だ。

腹の底で、何かが沸き起こっている気がした。





短いですねぇ。
でもゲームを久々にやった勢いで書いた割にはまぁ覚えていたかなぁと。
私の中では意外と強かな幸村さん。
2010/06/17