雪掌編

※三成にきゅんとする清正な清三




「雪だな」

淡々とした口調だった。

彼は昔からこうだ。
雪に然したる珍しさを感じないからか、彼は何とも無しにそう言う。

「何、雪だと!」

対して俺よりもひとつ年上の筈の正則は、とても雪を愛しているようだ。
聞いた側から走り出している。

「…馬鹿が」

独り言だろう。
盗み見た表情は呆れながらも少し穏やかだ。

…こんな顔もするのか。

何だか照れくさいような妙な心持ちになった。
視線を庭先に逃がすと、もう随分と遠くの方へ走っていった正則の後ろ姿が見えた。


/

彼は火鉢にあたりながら、そっと眼を細める。
こうしたささやかな仕草が、実はとても気に入っている。

「雪が積もったら、雪玉当てをするんだとさ」

障子の外を横目に窺いながら言う。

「あの降り方だ。明朝あたりには随分と積もっているだろうな」

彼は首を少し傾けて、障子の外を眺めるように言う。
長めの前髪に隠れてちらちらと見える横顔は小憎らしいほど整っている。

「そうか」

不意に真っ直ぐ見つめられる。

「お前のことだから、どうせまた正則の我が侭に付き合ってやるんだろう?」

どこか楽しそうな表情だ。
言葉では軽く馬鹿にしたように言うが、これも彼なりの愛情表現である。

「そうだな。俺の回りは我が侭な奴が多いから」

そう言うときょとんとして、

「正則以外に我が侭な奴など考えられん」

等と宣った。

「…ああ、そうかい」

やれやれ、と言いかけた矢先、

「それに俺は、お前が側に居ればそれ以上は言わぬからな」

そうして少しばかり困ったように微笑んだ。


…ああ。
どうしてこう、その、何だ。

「どうした、清正」

不審そうな表情だ。
だがしかし、それも致し方ない。

「いや、その」

全く以て考えが纏まる気配がない。
色々と思うところは有る。
が、全てが言葉の形を取る前に揮発してしまうのだ。

「だからだな…えっと」

朧気に輪郭を辿ろうとする。
どうすれば理解出来るんだ。
わからない。
だが、これは。

「兎に角、お前」


―――それは狡いだろう?



障子の外では、静かに雪が積もっていた。
少し短くなってしまったなぁ、と反省
きゅん、の定義が難しかったので、私的きゅんを2パターン書いてみました。
2010/01/25