世話焼き日和※まさかの学パロですよ先生。 「清正、あれお前の知り合いじゃないのか?」 友人と下校する途中、他学年の教室付近。 言われなければ気が付かなかったが、どうにも上級生同士で揉めているようだ。 その中に見知った姿を見付けて、小さく溜息を吐いた。 あれは放っておいてはいけない。 「悪い、先に帰っといてくれ」 そう言ってロッカーとは逆方向に歩き出す。 「おう、なんか解らんが気をつけろよ」 友人の声を背に、やれやれ、と再度溜息を吐いた。 廊下には恐ろしく険悪な空気が流れていた。 方やこの学校を仕切るいかにも古典的な"番長"と"子分達"といった体のグループ。 方や生徒会長の右腕として名高い"優等生"が一人。 もう見るからにリンチ寸前だ。 …なんで逃げないのだろうか。 そう思いながらも、彼がそこで相手に背を向けられない損な性分で有ることも重々承知していた。 「大体よぉ。てめぇの顔が先ず気に食わねぇんだよ」 番長の側の生徒が言う。 …顔のことに触れるか…命知らずめ。 「お高くとまりやがって。調子に乗ってんじゃねぇぞコラ」 それはもうありとあらゆる暴言が吐かれている間、彼は大人しく黙っていた。 奇跡的だ。 彼はああ見えて割と短気な方なのである。 さて何処で止めに入ろうかと機を窺っていると、 「…気は済んだか、馬鹿共め」 と嘲るように一言。 火に油を注ぐどころか、直接焼夷弾を打ち込むような暴挙だ。 案の定左端の「キレた」生徒が、 「てめ、舐めてんじゃねぇよ!」 とこれまた古典的な台詞と共に顔面狙いストレートを打ち出す。 それをさらりと躱し、殴りかかってきた相手を勢いのまま地面に突き倒した。 「これだから馬鹿は困るのだよ」 …ナパーム弾をこれでもかという勢いで投下している。 やばいぞ。 これはいい加減止めに入らなくては。 「てめぇ…!!」 だが殺気立った空気の中に飛び込むのは、随分と気を遣う物なのだ。 尚かつ、相手が上級生というのも中々に分が悪い。 が、ここで中断させないことには彼が病院送りになりかねない。 仕方有るまい。 意を決して危険な集団に飛び込み、 「はいはい、済みません。ちょーっとこの人に用事があるのでお借りしていきます」 と一応断りを入れて、彼の腕を思いっきり引っ張って逃げた。 ぽかんとしている上級生達を尻目に、急いで階段を駆け下り、ロッカーに飛び込み、靴を替えさせ、学校から這い出した。 終始、無言である。 ある程度街中まで走ったところで、 「ば…いい加減…とま…」 と息を切らしながら怒鳴られたので取り敢えずその場でベンチに座る。 この程度の距離で音を上げるとは軟弱な。 …等と言ったら今度こそぶち切れそうだ。 「何で…お前…」 ぜぇぜぇと息の音がする。 こんなに体力がないのだ、やっぱり連れ出して正解だった。 「そりゃお前、不良なんかに絡まれてたからだろうが」 辺りを見渡すと、ちょっと歩いたところに自販機を発見した。 「…あれは…大体」 何か言っていたがよく聞こえない。 小銭を投入して、スポーツドリンクのボタンを押した。 ゴトリ、という落下音。 つかんだボトルは当然のことながらとても冷たかった。 「何れにせよ、ああいう手合いには正面から関わらない方が良いんだ」 「そうやって放っておくから、ああやって増長し…っ!」 これ以上説教されるのはごめんだ。 そう思って、買ったばかりのペットボトルを頬に当てた。 驚いたのか、言葉が途中で詰まる。 「…本当に手の焼ける奴だ」 自分よりも年上なのに、何とも頼りない。 「お前に手を焼かれた覚えは無いぞ」 むっとして反論してくる。 最近はこの不機嫌そうな顔にも愛嬌を感じるようになってきた。 …末期かも知れない。 「まぁ好きで焼いてるんだし文句は言わないさ」 キャップを捻り、よく冷えた中味を喉に流す。 ちらっと横目に見ると、もごもごとなにごとか呟いている。 言い返す言葉を探しているようだ。 「…お前如きに何が出来る」 プライドが山のように高い彼としては、黙って認めるなんてこと、絶対できないのだろう。 「確かに俺に出来るのは、お前の頑固を認めてやることぐらいだな」 年長者に対する気遣いなんて物は最初から持ち合わせていない。 抑も、自分より手の掛かるこの男が年上だとはとても思えない。 「うるさい。お前とてそう聞き分けが良い方でもあるまい」 鬼の首を取ったように、ふん、と鼻で笑う。 だが、残念ながらそう簡単に勝たせてやるつもりはないのだ。 「ああそうだな。けどお前には譲ってやるって言ってるんだ」 間が空いた。 「…え?」 予想以上に効いたらしい。 熟々頭の回転の速い奴で助かった。 「お前みたいな手の掛かる奴、普通は捨て置くぞ」 こちらが何を言わんとしているか何となく察したらしい。 一気に調子を狂わせる。 「だ、黙れ」 口調から焦りが見て取れる。 だが、此処で手を緩めてやるつもりはない。 「まぁそこは惚れた弱みという奴だ。仕方がないから面倒を見てやる」 絶句。 顔を真っ赤にして、怒るでもなく、言い返すでもなく、呆けている。 「取り敢えず、あれだ。気分直しにクレープでも奢ってやるよ」 「ば、あ、甘い物はいらん!」 「じゃあたこ焼きでも良いぞ」 そうじゃなくて、と言いかけた所で 「お前が欲しがる物なら何だってやるさ」 と、止めを刺しておくのだった。
自分史上最高のあほっぽさ。駄菓子的な甘さ。
パロにすると何かの箍が外れますね…笑 2010/01/17 |