「皐月掌篇」


※手の大きさを比べ合うきよみつ。要時代考証…^^;





木刀を振る音が聞こえて、ふと庭先を眺める。
ああ、清正だ。

「威勢が良いな」

声を掛けると、素振りを止めた。
手の甲で汗を拭い、つかつかとこちらに歩いてくる。

「…中途じゃないのか?」

あまりにもあっさり止めたので少し驚いたのだ。

「いつ止めようか、決めてなかったんだ。丁度良かった」

少し遠くを見るような顔つきに、こちらもつられて遠くに目をやる。
山は、青々としている。
そう言えば、最近暑くなってきた。
もうそろそろ梅雨、だろうか。
雨はあまり好かない。気分が滅入って仕方がないのだ。
夏は、もっと好かないのだが。

「おい」

目の前で手がひらひらと振られる。
なんだか、それが酷く大きく見えてぞっとした。

「ばか、やめろ。ちゃんと聞いてる」

それにしても、いつの間にこんな大きな手になったんだろうか。
どこか釈然としない思いを抱えつつ、振られた手を捕まえる。

「え?」

ぎょっとした顔がおかしくて、つい吹き出しそうになった。
こうしていれば年相応、というか、それ以上に幼く見えるのに。

試しに自分の掌を重ねてみた。
…まぁ最初から分かっていたのだが

「…大きい、な」

呟くと、尚のこと差がはっきりするようだ。
何でこんなにも体格に差が出たのか、思い当たる節も無い。
ほんの数年前まであまり変わらなかった気がするのに。

「…三成」

ふと視線を上げると、ぎこちなく顔をこわばらせる清正と目があった。
普段は取り澄ましている事が多いのに、今日はどうも様子がおかしい。
何だろう、調子でも悪いのだろうか。

「どうした清正。疲れたか?」

聞くと、神妙な顔つきで眉間に皺を寄せた。

「疲れてはいない。ただその…何だ」

続きを促すが、中々言おうとしない。
不審に思って首を傾げると、

「あんまり誰彼構わずこういうことするなよ、馬鹿」

そう言って合わせていた手を緩く握られた。
自分のより大きく、しっかりとした手。
そのくせ酷く熱くて、何だか童を思い出させる。

「変な奴だな」

笑うと、やはりどこか困ったように溜息を吐かれた。

自分の手は握られて綺麗に手の中に収まってしまっていた。
それが何だか悔しくもあり、しかしどこか安心感もある。

見上げると、清正は耳まで朱くしている。

「素振りのし過ぎか?」

頬を伝う汗を軽く拭ってやる。

「…馬鹿」


吹き抜ける風の匂いが青い。
もう、夏が来るんだと改めて思った。





だいぶ前に絵茶の際書いた物をやっと格納。
存在自体をすっかり忘れていたなんて…不義なり

2010/08/17