放っておけない


何となく、心のどこかで、こいつは俺が居ないと駄目なんだ、と思っていた。
いつからかは忘れて仕舞った。
でも、背を追い抜かしたときだったか、木刀での試合で勝ったときだったか、いつだったか。
そのどこかで俺は、そんな風に思った。

偉そうに年上面されることが気に入らなくなった。
というより、いつまでも子供扱いされるのが心底気に入らなかった。

不思議と、正則にはそんな風に思ったことは無い。
抑も、あまり兄貴面をするような奴ではなかったし、割と早い段階であれには勝てた。
正則も正則で、そういった事にあまり頓着しない質なのか、いつのまにか俺の方が年上のような気がしてきた位である。
単純に、仲が良い。

じゃあ三成と仲が悪いのかと言われると、それもそれで違う気がする。

確かに奴はあとから一緒になった為に、少しばかり浮いているような気がした。
人を食ったような喋り方も、俺たちと溝を作る大きな原因だったと思う。
しかし、嫌い、と言い切ってしまえないのである。

少し前の俺ならば躊躇無く『嫌い』だと言ったろう。
正則ならば未だにそう言うかも知れない。

だが、今の俺にはどうもその言葉は違うように思われたのである。

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「だから、放っておけと言ってるだろうが」

そう言いながら、足下が覚束ない。

「疲れてるんだろうが、無理するな、馬鹿」

早足で廊下を渡る男を追いかけて、こちらも早めに足を運ぶ。
だが、脚の長さが微妙に違うので、彼程急ぐ必要は無い。

「無理はしてない。大丈夫だからお前はさっさと部屋に帰れ」

更に歩調を早めるのでついこちらもむきになってついて行ってしまう。
そうやって無茶をするから良くないのだ、と一言説教してやらねば気が済まぬ。

「じゃあどうして席を立った」

少し、息を切らせているように聞こえる。

「…居ても、無駄なのだよ」

間違いない、息が上がっている。

「三成、お前」

手を伸ばした瞬間、三成はどさっと床に崩れた。

「おい、三成!?」

抱き上げると酷い熱があった。

「…この馬鹿、だから言ってやってたんだろうが」

額に手を宛てると、燃えるように熱かった。

「…煩い、清正の癖に」

この期に及んでまだそんな口を利くか。

「馬鹿、取り敢えず部屋まで帰らないとどうしようもないだろうが」

立たせて肩を貸す事も考えたが、それで歩ける状態でもなさそうだ。

「っ、と」

担ぎ上げると、

「ば、下ろせ、やめろきよまさ」

善意に対して力のない蹴りで返礼された。
全く、これだからこの男は…

「…大人しくしてろ。騒ぐと人に見られるぞ、良いのか」

やっと大人しくなった男は、やはり思った通り軽かった。
ろくに食べていないんじゃないだろうかと思える程、軽い。




―――その辺りが、喉の奥で引っ掛かっている何かなのではないかと、最近思うのである。






分けてみました。
しかし続きはいつになるか分からない件。
まぁ切れるところで切っているのでこれだけで読めなくも…ね。
2010/06/17