愛すべき不器用本質的に彼は器用である。 器用なんだが、時折そこはかとなく不器用にもなる。 それこそ、見ていて心配になるぐらい不器用なのだ。 人付き合いが、とてつもなく下手である。 それはもう、目も当てられないほどに。 先ず、とんでもなく口べただ。 口べたというと、少し語弊があるかも知れない。 本当に言いたい事と、口をついて出てくる言葉とが乖離している、と言えばいいだろうか。 決して間違ってはいないはずなのだが、どうも言い方が不味い。 歯に着せる絹を全く持たぬような口の利き方なのである。 付き合いが長くなれば、それなりに言いたい事も解ってくる。 どんなに刺々しい口調に聞こえても、彼自身は別に他人を傷付けたり不快にしたりする意図は持ち合わせていない。 単に、人を不快にさせない話し方を知らないだけなのである。 彼は自分がそう言ったことに全く無頓着で有るが故に、他人もそうだと思い込んでいる節がある。 言い方ではなく本質だけを気にする物だと、本気で思い込んでいる。 それが彼にとっての会話であり、言葉である。 だから、自然と周りの人間に壁を作ってしまう。 それだけではない。 彼は日頃とてつもなく饒舌な癖に、肝心なことを言わない。 心の奥底を決して人に見せまいとする良くない癖が有るのだ。 本当は冷血でもなければ鬼でもない。 人並みの感性を持ち合わせていながら、其れを外に出せないだけなのである。 要するに、とんでもない不器用なのである。 その為に、人に誤解されやすく、反感を持たれやすい。 ―――というだけのことに気付くのに、どれ程時間が掛かったか解らない。 何年間あれと付き合っていたのか、数えるのも馬鹿げている。 それなのに、つい最近漸く理解したのである。 それも、殴り合いじゃ済まされない様な大喧嘩をするまで全く気が付いていなかった。 あんなに近くにいても解らないんだから、それ以外の人間に解ってもらえる訳がない。 ならいい加減その不器用を何とかすれば良いんじゃないか、と他人事ながら思っている。 「…馬鹿が、人の話を聞いてなかっただろう」 完全に聞いていなかった。 そうだ、なんでこんな事を考え出したかって、正に目の前にいたからだ。 すっかり忘れていた。 彼は不機嫌そうに眉を顰め、苛立ちを表現するために腕を態々組み直す。 非常に棘のある言い方だが、この場合はこちらに非があるのだから仕方がない。 「悪いな、考え事に夢中だったんだ」 素直に白状すると益々嫌そうな顔で、 「後で困っても知らないからな」 と吐き捨てた。 これは全く以て彼の本心だろう。 だが、見方を変えれば「聞いておかなければ後で困るようなことを言っていたんだぞ」という主張に他ならない。 非常に回りくどいが、要するに彼なりに警告してくれている訳である。 「で、何の話だったんだ?」 普通ならここで聞き返さないだろうが、こと彼に限ってはそれで正解なのである。 「次聞き逃したらもう言わないからな、馬鹿」 呆れた、と言わんばかりの態度だが、律儀に二度目に入る。 素直に言えばいい物を、といつも思うのだが、彼の素直さには少しばかりずれがあるようだ。 彼にとって素直に、とは、棘を取り払わないそのままの言葉、という意味なのである。 これでは人付き合いも上手くいくまい。 「で、今度こそきちんと聞いていたのだろうな」 言葉こそ偉そうだが、気遣いに数えても良い内容だ。 「ああ、聞いたぞ。何なら復唱しようか?」 彼は静かに溜息を吐いた。 やっとお役ご免だ、とばかりに。 「解っているなら構わん。くれぐれも忘れぬように」 それだけ言って、くるりと踵を返してその場を立ち去ろうとした。 「三成」 呼び止めると、大人しく振り向いた。 「何だ」 「ありがとう、な」 くしゃくしゃと軽く頭を撫でる。 「…………!?」 激しく混乱しているのか、全く言葉が出てこない。 紅潮した顔で所在なさげに視線を彷徨わせている。 …口さえ開かなければ可愛い奴なんだがな。 ややあって、彼は何かもぞもぞと口にした。 「どうした?」 聞き直せば、尚言いにくそうに 「どう…いたしまして」 なんて、俯いて小声で言う。 前言撤回、口を開いても可愛い時がある。 ―――全く彼の為にはならないが、不器用さえも愛おしい。
清正は出来る子だって信じてる。笑
2009/12/25 |